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福岡高等裁判所 昭和28年(う)2802号 判決 1955年6月25日

控訴人 原審検察官 山根静寿

被告人 倉田明

検察官 中倉貞重

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、原審検察官山根静寿作成名義の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する弁護人諌山博の答弁は、同弁護人提出の答弁書記載のとおりであるからいずれもこれを引用する。

同控訴趣意第二点について、

原判決が、被告人が伊藤進外一名と共謀の上、昭和二十七年六月二十五日午前零時三十分頃判示脇坂克己方裏茄子畑から同人方居宅に向かい、いわゆるラムネ弾一個を投てきした事実を認定した上、該ラムネ弾は理化学上の爆発現象を呈するものではあるが、その爆発の威力は未だ以て社会公共の平和を攪乱し、人の身体財産に甚大な被害を与えるに足る破壊力を有するものとは認め難いので、爆発物取締罰則にいわゆる爆発物に該当しないものと判定していることは所論のとおりである。

ところで、本件記録によると被告人が右脇坂克己方に向つて瓶内のカーバイトに水を混入して投げたラムネ瓶は、同家(平家建)の屋根瓦に当り、そこから裏庭の地面に転がり落ちて、中央部辺から上部と底部の二個の破片に壊われ、しかも瓶内の球栓(俗にいうラムネの球)が栓座に密着していなかつたこと、そしてその瓶内には一七・三瓦乃至二十瓦の分量のカーバイトが投入されていた事実が認められるが、検察官はラムネ瓶にカーバイトを入れて水を注いだものは爆発作用を起し、その威力は当に「社会公共の平和を攪乱し、人の身体財産に甚大なる被害を与えるに足る破壊力」を有するので、本件ラムネ弾は爆発物取締罰則にいわゆる爆発物に該当するのにかかわらず原審がこれを否定したのは、事実を誤認したものであるというので、検討するのに、まず、鑑定人塚元久雄作成の鑑定書、鑑定人山本祐徳作成の昭和二十七年九月十三日付(二十八年とあるのは誤記と認める)鑑定書謄本並びに同人作成の昭和二十七年十一月二十五日付鑑定報告書謄本によると、一般にいわゆるラムネ弾は、カーバイトの入つたラムネ瓶に水を加えると直ちにアセチレンガスを発生して発泡するので、急遽瓶を45°位に下むきに傾け、球栓が栓座に当るようにし、多量に発生するアセチレンガスとその反応熱のために生じた内圧のために、球栓をバツキンに接着させて密栓し完全に外気を遮断すると、そのアセチレンガスの急激な膨脹による圧力の異常な増大に伴い、瓶が内圧に耐えられなくなつて、遂に爆発するに至り、一種の物理的爆発現象を呈するものであつて、理化学上の爆発という概念が広義において「ある物体系が急激迅速に増大する現象」(物理的爆発)をいい、狭義において「ある物質の分解又は化合が極めて急速に進行し、その際一時に多量の熱と瓦斯を発生しその体積が急激迅速に増大する現象」(化学的爆発)を指し、そのような広狭両義における現象を惹起し得るように調合装置された物件を、理化学上の爆発物という点からみると、右ラムネ弾はそれが爆発物取締罰則にいわゆる価値概念的な爆発物であるかどうかはしばらくおき、右理化学上の意義における爆発物に該当するものであるということができる。

ところがラムネ瓶にカーバイトと、水を混入したもののすべてが、右のように爆発現象を惹起する理化学上の爆発物であるとは限らないのであつて、前掲鑑定書によると、カーバイトの分量が十瓦以下では爆発しないし、アセチレンガス発生のためには十分な水量をも必要とし、又、球栓が栓座に接着して密栓とならなければ、発生したアセチレンガスは外部に飛散して高度の圧力を生じないので、ラムネ瓶にカーバイトと水を混入したものが前記爆発現象を惹起するためには、一定の条件を具備すること、すなわちラムネ瓶内に投入さるべきカーバイトの分量が十五瓦以上であつて注入される水量も十分であり且つ、球栓が栓座に接着して完全に密栓となることの三要件が必要であるとされ、若し(一)ラムネ瓶に投入されたカーバイトの分量が十瓦以下であれば、十分な水量があり球栓が栓座に接着して完全に密栓となつても、瓶を破壊するに足る程度の内圧を生じないため、絶対に爆発現象を惹起するに至らないと同時に又、(二)瓶内に投入されたカーバイトの分量が十五瓦以上の適量であり、これに十分な水量が注入されても、球栓が栓座に接着して瓶内が完全に密閉されない限り、発生したアセチレンガスは瓶口から外部に飛散して、内圧を生ずるに由なく、遂に爆発現象を惹起するに至らないものであることが明らかである。

従つて、いわゆるラムネ弾の爆発は、具体的には十五瓦以上のカーバイトの投入されたラムネ瓶に十分な水量を混入してすぐその瓶を傾斜し、球栓を栓座に接着させて完全に密栓を施すことにより、二十秒乃至三十秒間に前記説示した原理のとおり瓶内に発生したアセチレンガスが反応熱により急激に膨脹し、瓶を破裂させるに足る程度の異常な圧力を生ぜしめて起るものであつて、この場合球栓が栓座に接着して密栓となつた瞬間、はじめて爆発現象を惹起する過程に進行するのであるから、いわゆるラムネ弾は爆発可能の分量である十五瓦以上のカーバイトの投入されたラムネ瓶に、十分な水量を注入した後、その球栓が栓座に接着して密栓された瞬間において、理化学上の爆発物となるものと解するのが相当である。

そうだとすれば、ラムネ弾を使用したのに、それが爆発しなかつた場合球栓が栓座に接着して瓶が密栓となつていた限り、それは既に爆発物となつたラムネ弾を、爆発させる迄の処置が拙く爆発直前に瓶の破損等により、アセチレンガスが外部に飛散したために、爆発しなかつたもので、それは爆発物を使用したものということができるが、球栓が栓座に接着せず瓶が密栓となつていない限り、それは未だ爆発物としてのラムネ弾の製造が完成せず爆発物でなかつたものを爆発させようとしたまでのことで爆発物の使用とはならないものといわねばならないことになる。

ところで、前掲鑑定人塚元久雄の鑑定書、警察技官井尾正隆作成の物品検査報告書の記載によると、被告人が脇坂克己方にカーバイトを入れたラムネ瓶に水を注入して投げた本件ラムネ弾は、冒頭認定のとおり、ラムネ瓶内のカーバイトの分量は十七・三瓦乃至二十瓦で、一応爆発すべき分量ではあつたが、そのラムネ瓶は中央部辺で壊われて上部と底部の二個の破片となり、その瓶の破損状況パツキンの附著状況からみて、パツキンの不完全なため球栓が栓座に接着せず完全な密閉がなされていないため、水の注水により発生したアセチレンガスは、瓶中から外部に飛散して爆発現象を惹起していないことが明らかであるから、いわゆる本件ラムネ弾は、前段説明したところにより、爆発物としての製造が完成せず未だ理化学上の意義における爆発物ですらもなかつたものと認められるので、被告人が前示脇坂克己方居宅に向かつて投げた本件ラムネ弾は、勿論爆発物取締罰則にいわゆる爆発物に該当しないものといわねばならない。

然るに、原審はいわゆる本件ラムネ弾が理化学上の爆発物であつたことを前提として判断をしているので、この点において事実の認定を誤つているが、本件ラムネ弾が爆発物取締罰則にいわゆる爆発物に該当しないものとして、無罪の言渡をしている点からみると、当裁判所の結論と同一に出ておつて、右の誤は判決に影響を及ぼさないことが明らかであるから、本件ラムネ弾が理化学上の爆発物であることを前提とする本論旨(この点弁護人の答弁も同一の前提であるが)は全く理由がない。

そして本件ラムネ弾は理化学上の爆発物にも該当しないこと右説明のとおりであるから原判決が本件ラムネ弾は爆発物取締罰則にいう爆発物に該当しないものとした点を捉えて、法令の適用に誤があることを主張する論旨第一点につき説明する迄もなく、本件控訴は理由がないものとして、刑事訴訟法第三百九十六条に則り、これを棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 西岡稔 判事 後藤師郎 判事 大曲壮次郎)

原審検察官の控訴趣意

第一、法令の解釈の誤 原判決には、明かに判決に影響を及ぼすべき法令の解釈を誤つた違法がある。

即ち原判決は、被告人が伊藤進外一名と共謀の上昭和二十七年六月二十五日午前零時三十分頃福岡県田川郡大任村大行事古川大峯炭坑万才町社宅脇坂克己方裏茄子畑より同人居宅に向い投擲した所謂ラムネ弾は爆発物取締罰則にいう「爆発物」に該当しないものとなし右被告人の行為につき同罰則を適用しなかつたのは、同罰則の「爆発物」に関する解釈を誤つたものであつてその誤りは明かに判決に影響を及ぼすものである。

一、原判決は、被告人が伊藤進外一名と共謀の上前記日時場所に於てラムネ空瓶にカーバイト十七・三瓦乃至二十瓦を詰め込み、これに水を注入したいわゆるラムネ弾一個(昭和二十七年裁第三〇〇号の一)を脇坂克己方に向い投擲した事実を認め、且つ、爆発物取締罰則に所謂爆発物とは、狭義の爆発(物質の分解又は化合が極めて急速に進行し、一時に多量の熱とガスを発生して体積の急速な増大をきたす現象即ち化学的爆発)性能を有する物体(物質)のみに限定する理由に乏しく、広義の爆発(物理的な体積急増の現象、即ち物理的爆発)性能を有する物体をも包含する概念と解するのが相当であると解釈し、然も同罰則の立法趣旨に照し、且つ特に法定刑が著しく重い点を勘案し、同罰則に謂う爆発物は、前記の広狭二義の爆発性能を有するもののうち強烈な爆発作用を惹起し、右作用により公共の平和を攪乱し、又は人の身体財産を傷害、損壊し甚大な被害を与える可能性の極めて大なるものに限定したのである。

二、然しながら、爆発物の定義に付き大正七年五月二十四日大審院第一刑事部及び同年六月五日同院第三刑事部は、「爆発物取締罰則ニ所謂爆発物トハ化学的其ノ他ノ原因ニ依リテ急激ナル燃焼爆発ノ作用ヲ惹起シ、以テ公共ノ平和ヲ攪乱シ又ハ人ノ身体財産ヲ傷害損壊シ得ベキ薬品其他ノ資料ヲ調和配合シテ製出セル固形物若クハ液体ヲ指称スルモノトス」となし、爆発作用に依り公共の平和を攪乱し又は人の身体財産を傷害損壊し得る能力あるを以て足るとしているのであつて、原判決の言うが如く「強烈な爆発作用を惹起し、右作用により公共の平和を攪乱し、又は人の身体財産を傷害、損壊し、甚大な被害を与える可能性の極めて大なるもの」即ち被害の甚大なること若しくは甚大なる被害の可能性を以て要件とはしていない。

三、原判決は前記の如く爆発物に付被害の甚大性を要するとの制限解釈をする理由は爆発物取締罰則の法定刑が刑法に定める類似の犯罪に対する刑罰(刑法第百十七条第百三条第百四条第百十三条第二百一条等)に比し極めて重い点にあるとなしている。成程同罰則の法定刑が刑法の定める前記類似の犯罪に対する刑罰より稍々重い事は明かである。(但し同罰則中最も典型的にして且つ基本的犯罪型体と目せられる同罰則第一条の法定刑と同条の外形的事実と最も類似する刑法第百十七条の法定刑とは略々同一である)然しながら両者の法定刑の軽重を以て爆発物に付き前記の如き制限的解釈を施すことは誠に理由なき皮相の試みであると言わなければならない。蓋し、前記刑法の各規定は犯罪成立の主観的要件として事実の認識(犯意)のみを以て充分とするのに反し爆発物取締罰則第一条乃至第四条は犯罪成立の主観的要件として事実の認識(犯意)の外「治安ヲ妨ゲ又ハ人ノ身体、財産ヲ害セントスルノ目的」を必要とし第五条第八条及第九条は「第一条ニ記載シタル犯罪者ノ為メ」「第一条乃至第五条ノ犯罪アルコトヲ認知シタル時ハ」及「第一条乃至第五条ノ犯罪者ヲ」と夫々規定し何れも「治安ヲ妨ゲ又ハ人ノ身体、財産ヲ害セントスルノ目的」を有する犯罪者又は犯罪に関する規定であること明白である。同罰則の法定刑が刑法の類似の規定に比して重いのは実に同罰則の犯罪は主観的要件として事実の認識の外に前記の如く治安を妨げ又は人の身体財産を害せんとする目的あることを必要とし且使用物品が爆発物なる特殊の物品であるが故であつて、それだからこそ同罰則第六条は爆発物を製造輸入、所持し又は注文した者につき前記目的の立証なき場合は、同第三条の法定刑を二分の一以下に軽減したのである。このことは明治十七年十二月十一日参事院上申の爆発物取締罰則説明に「本則ニ於テ最モ悪ミテ痛ク禁遏ヲ加ヘントスルノ主眼ハ爆発物ヲ使用スルノ目的ト其使用スル物品トニ在リ故ニ苟モ他ニ危害ヲ与ヘント欲シテ爆発物ヲ使用スルモノハ其ノ治安ヲ妨クルト人ノ身体財産ヲ害スルトヲ問ハスシテ同一ノ刑ニ処ス他ナシ其危害ヲナスノ大小軽重ニアラスシテ爆発物ヲ使用スルノ目的ト又其使用シタル物品ノ爆発物タルヲ悪ミテナリ」と解説していることに徴するも明かであつて、法定刑の重いことを以て前記の如く制限的解釈をなすは本末転倒の議論と言わなければならない。

四、抑々刑罰法令に付ては、特に罪刑法定主義の要請により、法律の安定性を害するが如き解釈は慎まねばならない。しかるに原判決は本件ラムネ弾を爆発物であると一応認定しながら、同罰則の刑罰が重いことを理由として、同罰則の爆発物は爆発物中その爆発力の強烈にして甚大なる被害を与える可能性の極めて大なるものに限定したのであるが、かかる概念により爆発物の範囲を制現することを認容することは法律解釈の専擅を招き、延いて法律の安定性を害すること明かである。しかも同罰則の刑が重刑であるが故にこそかえつてかかる不明確な概念を許容しその適用を不明確にすることは許さるべきでない。

第二、事実の誤認 原判決には明らかに判決に影響を及ぼすべき事実の誤認がある。即ち、一、原判決は本件ラムネ弾の爆発力につき、(一)ラムネ弾に市販のカーバイト十八瓦(本件ラムネ弾と略同量に当る)を詰め、これに水三十立方糎を注入した場合の爆発力に付き証人二神哲五郎の第七回公判に於ける供述及同人作成の鑑定書の記載からそれは人体に傷害を与え得るものではあるが死の結果を生ぜしめる場合は通常考えられずその威力の程度は低いものである。(二)カーバイト三十七瓦を詰めたラムネ弾を四分杉板(厚さ約一糎)で造つた木箱(縦横五十七・五糎、深さ八十九糎)内で爆発せしめた場合の威力は鑑定人山本祐徳作成の昭和二十七年十一月二十五日附鑑定書(謄本)の記載に徴し四分杉板を貫通する場合は極めて稀な場合であることが窺われ、多くはその程度に至らず木箱自体は何等破壊されないものであることが認められ、その威力は必ずしも大きなものとは言えない。(三)カーバイト二十瓦及び三十瓦をそれぞれ詰めたラムネ弾をリンゴ箱(横五十三糎、縦二十三糎、深さ二十六糎)の中で爆発せしめた威力に付き鑑定人塚元久雄の鑑定書の記載に徴し右箱を破壊しない程度のものである。となし、以てラムネ弾の威力は未だ以て社会公共の平和を攪乱し人の身体財産に甚大な被害を与えるに足る破壊力を有するものとは到底認めることが出来ないとなした。

二、然しながら、(一)前記証人二神哲五郎の第七回公判に於ける供述及び同人作成の鑑定書の記載を検討するにラムネ弾(市販のカーバイト十八瓦を詰め、水三十立方糎を注入したもの)から十糎の距離に窓ガラス、サラシ木綿、革皮、鉛板、木材を置いて爆発せしめた場合その威力は窓ガラスはめちやめちやに破損しサラシ木綿は所々切つた様に孔が開き多くはラムネ瓶の破片が通過した形跡を示し、革皮も切れて破片が通過し、鉛板には深さ約二分の一ミリ程度に破片が突きささり、木材も所々深さ約二分の一ミリの損傷を受け、更に偶々実験中約五米の距離に居た実験補助者の足にガラスの破片が当り、割れ口ではない所が当つたと想像されるにも拘らず洋服及靴下を通して足に皮下出血を起こし且、瓶の破片は眼鏡の玉の約四分の一大のものが二十五米飛散し、五米乃至十米の個所に於ては人体に傷害を与えるものであることが明白である。更に右ラムネ弾を壁の厚さ四・五糎、底の厚さ五糎、内径五十糎のコンクリート製用水桶に深さ五十糎まで水をいれその中に鰌十五匹を入れて爆発せしめた場合、用水桶は側が三個に、底は放射状に七個に破壊せられ鰌は十五匹中二匹は即死五匹は五時間内に死亡した事が明らかである。(二)鑑定人山本祐徳作成の前記鑑定書(謄本)の記載を検討するにカーバイト三十七瓦に水約五十立方糎を注入したラムネ弾を四分杉板で作つた木箱(縦横五十七・五糎、深さ八十九糎)内で爆発せしめた威力に付き破片は木箱の四壁、蓋及び底に突き刺さり甚だしきに至つては二十五瓦程度の大破片が四分板を貫通し、破片の数は二十五瓦以上のもの二個乃至七個、十瓦以上二十五瓦のもの八個乃至十二個、五瓦乃至十瓦のもの十三個乃至十五個、一瓦乃至五瓦のもの四十二個乃至八十四個、一瓦以下(但し大きさ五耗以下を除く)のもの三十三個乃至八十五個の多きに上り、而も十瓦乃至二十五瓦の大破片が二米乃至五米の範囲に亘つて飛散した事が明白であり人体に接近し特に顔面、頸部、腹部に対し三十糎以内に於て作動すれば致命的傷害を与え、五十糎乃至六十糎の距離に於ても薄着の場合又は露出部に命中すれば傷害を与えるものであることも明かである。(三)鑑定人塚元久雄作成の前記鑑定書の記載を検討するにカーバイト二十瓦及三十瓦に水六十五立方糎を注入したラムネ弾の爆発時間及破片数につき、爆発時間十五秒乃至二十五秒、破片数三糎以上のもの約二十三個乃至約二十六個、一糎乃至三糎のもの約二十四個乃至約三十個、一糎以下のもの約百二十個乃至約百三十個であり、又破片の飛散距離に付き、

カーバイト量(瓦) 水の量(立方糎) 一米以内 一米より二米の間 二米より三米の間

(1)     一五       四〇    一        二        一

(2)     一五       六〇    二        二        三

(3)     二〇       四〇    一        四        七

(4)     二〇       六〇    一        四        四

(5)     三〇       四〇    一        三        三

(6)     三〇       六〇    五        五        七

三米より五米の間 五米より十米の間 十米以上 最大飛散距離(米)

(1)     二        四   大部分    三五、〇〇

(2)     三        五   〃      三四、〇〇

(3)    一五        八   〃      三三、六五

(4)     六        六   〃      三六、〇〇

(5)     七        七   〃      五一、二〇

(6)     四       一四   〃      五八、〇〇

なる事が明かであり、その結果、カーバイト量十五瓦に水を充分注入した時は約二十秒乃至三十秒にして爆発しその威力は爆発点より半径五米内外に於ては人体傷害の危険あり、五米以上と雖も安全は保し得ないことを認めることが出来る。(四)更にその爆音についても前記二神哲五郎の鑑定書の記載によれば屋外では五六十米以内屋内では三十米以内に居る人を驚かしむるに足ることを認めることが出来る。右爆音の鑑定は鑑定書の全記載に徴し昼間行はれたものと思はれるから、夜間に於ける爆音が人を驚愕せしむる程度は更に強度のものであることを推認するに難くないのである。

三、以上の事実を綜合すれば本件ラムネ弾はその爆発により多数のガラス破片を四囲に飛散せしめこれにより一時に多数の人の身体財産を損害する威力を有しその爆音また相当遠距離の人をも驚愕せしむるに足るものであることが明白であり且つラムネ弾が所謂火焔瓶と共に一昨年五月一日のメーデー事件を頂点として全国的に一部過激分子に依り悪用せられ社会不安を醸成した事実を考慮すれば、ラムネ弾の威力は当に「社会公共の平和を攪乱し、人の身体財産に甚大なる被害を与えるに足る破壊力」を有するものと言うべく、原判決は証拠の取捨選択を誤りラムネ弾の威力に関する事実を誤認したものと言わねばならない。

以上何れの点よりするも原判決は破棄を免れないものと信ずるので原判決を破棄し相当裁判あらんことを求める。

第三、事実取調の請求 1 本件ラムネ弾と同種のラムネ弾の爆発力の鑑定、2 同ラムネ弾の爆発状況の検証

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